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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)3528号 判決 1985年10月30日

第三五二八号事件原告

第一一一〇一号事件被告

山田隆一

第三五二八号事件原告

第一一一〇一号事件被告

山田史子

右両名訴訟代理人

早川俊幸

第三五二八号事件被告

第一一一〇一号事件原告

土屋宗一

第三五二八号事件被告

土屋産業株式会社

右代表者

土屋宗一

第三五二八号事件被告

第一一一〇一号事件原告

株式会社古瀬工務店

右代表者

古瀬英次

第三五二八号事件被告

宏林静憲

右四名訴訟代理人

福田照幸

福田治栄

第三五二八号事件被告

石塚ミヨ

右訴訟代理人

増田浩千

主文

第三五二八号事件につき

一  被告土屋宗一、同土屋産業株式会社、同株式会社古瀬工務店、同宏林静憲は各自原告山田隆一に対し金二五〇万六〇一五円、原告山田史子に対し金一〇五万九二九八円及びこれらに対する昭和五七年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告土屋宗一、同土屋産業株式会社は各自原告らに対し各金二二万円及びこれらに対する昭和五七年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告山田隆一と被告土屋宗一、同土屋産業株式会社、同株式会社古瀬工務店、同石塚ミヨ間において右被告らが原告山田隆一所有の別紙物件目録(三)記載の土地のうち別紙図面記載のAJKLDCBAの点を順次直線で結んだ範囲の土地部分につき隣地立入権が存在しないことを確認する。

四  原告山田隆一と被告土屋宗一、同土屋産業株式会社、同石塚ミヨ間において原告山田隆一が別紙図面FGHを結ぶ線上にある木塀につき所有権を有することを確認する。

五  被告土屋宗一、同土屋産業株式会社は別紙物件目録(二)記載の建物のうち西側の一階及び二階の窓に目隠を設置せよ。

六  原告山田隆一、同山田史子のその余の請求をいずれも棄却する。

七  この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

第一一一〇一号事件につき

一  被告らは別紙図面EABFEの点を順次直線で結んだ範囲の土地につき原告土屋宗一が訴外石塚ミヨより借り受けている土地であることを確認する。

二  被告らは原告土屋宗一が別紙図面EF部分の木塀を取り壊すのを妨害してはならない。

三  被告山田隆一は原告土屋宗一と費用折半にて別紙図面AB、BDに高さ二メートルの板塀を設置することを承諾せよ。

四  原告土屋宗一のその余の請求及び原告株式会社古瀬工務店の請求をいずれも棄却する。

両事件につき

訴訟費用はこれを五分し、その二は第三五二八号事件原告ら(第一一一〇一号事件被告ら)、その余を第三五二八号事件被告ら(第一一一〇一号事件原告ら)の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

(第三五二八号事件)

一  請求の趣旨

1 被告土屋宗一、同土屋産業株式会社、同株式会社古瀬工務店、同宏林静憲は、各自、原告山田隆一に対し金一〇八九万九七五一円、原告山田史子に対し金三六六万三八二九円及びこれらに対する昭和五七年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告土屋宗一、同土屋産業株式会社は、各自、原告山田隆一に対し金六六〇万円、原告山田史子に対し金二二〇万円及びこれらに対する昭和五七年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 原告山田隆一と被告土屋宗一、同土屋産業株式会社、同株式会社古瀬工務店、同石塚ミヨ間において、右被告らが原告山田隆一所有の別紙物件目録(三)記載の土地のうち別紙図面記載のAJKLDCBAの点を順次直線で結んだ範囲の土地につき、隣地立入権が存在しないことを確認する。

4 原告山田隆一と被告土屋宗一、同土屋産業株式会社、同石塚ミヨ間において、原告山田隆一が別紙図面EFGHを結ぶ線上にある木塀につき、所有権を有することを確認する。

5 被告土屋宗一、同土屋産業株式会社は別紙物件目録(二)記載の建物のうち同建物の西側及び南側の各一階、二階の窓につき、目隠を設置せよ。

6 訴訟費用は被告らの負担とする。

7 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(第一一一〇一号事件)

一  請求の趣旨

1 被告らは別紙図面EABFEの各点を結ぶ直線で囲まれた部分の土地が原告土屋宗一が訴外石塚ミヨより借り受けた土地であることを確認する。

2 被告らは原告土屋宗一が別紙図面EF部分の木塀を取り壊すのを妨害してはならない。

3 被告山田隆一は原告土屋宗一に対し、費用折半にて別紙図面AB、BDに高さ二メートルの板塀を設置することを承諾せよ。

4 被告山田隆一は別紙物件目録(四)記載の建物のうち同建物東側の一階、二階の窓及びベランダにそれぞれ目隠を設置せよ。

5 被告らは各自原告土屋宗一に対し、金六七五万円、原告株式会社古瀬工務店に対し、金一四六二万八六四〇円及びこれらに対する昭和五七年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

6 (予備的請求)

被告山田隆一は原告土屋宗一に対し別紙図面EF部分の木塀を撤去せよ。

7 訴訟費用は被告らの負担とする。

8 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

(第三五二八号事件)

一  請求原因

1 (当事者及び物件相互の関係)

(一) 原告山田隆一は別紙物件目録(三)記載の土地(以下原告土地という。)及び別紙物件目録(四)記載の建物(以下原告建物という。)を所有し、別紙図面EFGHを結ぶ線上にある木塀を所有している。原告建物は原告土地に建築され、原告山田隆一は原告建物に居住している。

(二) 原告山田史子は原告山田隆一の妻であり、原告建物に居住している。

(三) 被告石塚ミヨは別紙物件目録(一)記載の土地(以下被告石塚土地という。)を所有している。

(四) 被告土屋宗一は被告土屋産業株式会社の代表者であり、被告土屋産業は被告土屋の同族会社であり、同被告が名実ともに実権を握つている。

被告土屋、並びに被告土屋産業は、建主、施主として、被告石塚土地上に別紙物件目録(二)記載の建物(以下、被告土屋ビルという)を、被告UDS設計工房こと宏林静憲(以下、被告宏林という)を、設計並びに工事監理者として、被告株式会社古瀬工務店(以下、被告古瀬工務店という)を施工者として、右被告土屋ビルの建築工事(以下、本件工事という)を昭和五七年一月一二日に着工し、同年七月末には、被告土屋ビルの西側の外壁の一部を除き、ほぼ完成し、現在に至つている。

(五) 被告古瀬工務店は、建築業者で、被告土屋並びに被告土屋産業より、本件工事を請負い、その施工をなしたものである。

(六) 被告宏林は、UDS設計工務店名義で、建築設計並びに工事監理を業としているものであり、被告土屋並びに被告土屋産業より、被告土屋ビルの設計並びに本件工事監理を請負つたものである。

(七) 原告土地と被告石塚土地とは隣接しており、境界は、別紙図面ABCDで結ぶ線である。

2 (本件現場と本件工事の概要)

(一) 本件工事現場(被告石塚土地)並びに、原告山田土地の地盤は、いわゆる軟弱地盤である。三筋町一帯は、隅田川に通ずる堀割でつながれており、各所に船溜りがあつた場所であり、特に、本件土地付近は、今でも地名の残つている三味線堀(大正六年頃に埋められた)への入堀にあたり、台東区内でも地質はよくなく、軟弱である。

(二) 被告石塚土地には、昭和五六年一二月まで、前建物所有者たる岩浪芳蔵の二階建の木造建物が建つており、これを、被告土屋並びに被告土屋産業が昭和五六年一二月二八日頃、取りこわしを完了した。

そして、右両被告が、鉄筋コンクリート造、地上四階、地下一階の被告土屋ビルを、昭和五七年一月一二日に着工し、同年七月末日に、建物西側の外壁を除き、ほぼ完成し、現在に至つている。

(三) 被告ら四名は、本件工事開始に当り、原告らと工事協定も締結せず着工し、着工前並びに工事中の原告らの要望を全く拒否した。

(四) 被告土屋ビルは別紙図面のとおり、ABCDの境界より約二七・五センチしかあけていない。建物の固定的突出部分(例えば排水管等)までは、約三センチしかあけていない。

3 (被告土屋、同土屋産業、同古瀬工務店、同宏林の帰責事由)

(1) 本件工事現場(被告石塚土地)及び、原告土地は、前記のとおり、軟弱地盤である。従つて被告らは、このような地盤における地下を掘りかつ、鉄骨コンクリート四階建建築の本件工事施工にあたつては、施工計画に先立ち、現場附近の地質や地下水の状態、隣接建物、前面道路との関係、地下埋設状況などを十分に調査し、これらの条件に適応して、事故を生じないよう適切な工法を選び、原告建物、土地の被害発生の予防措置及び損害補償について協定すべき義務があつた。

(2) 被告ら四名は、右(1)の工法を選ばず、右(1)に反した工法を行ない、かつ、右被告ら四名は、本件工事にあたり、五米も地下を深く掘り、掘つた後裏ごめの山砂を埋戻しせず、工事方法が粗暴かつ違法工事であつたことにより、原告山田土地に地割れ、亀裂を生ぜしめ、床面の傾斜、立て付けの狂い等を生ぜしめ、原告土地、建物に損害を与えた。

(3) 右(1)、(2)の被告ら四名の粗暴かつ違法工事による騒音、落石、ゲンノウ落下等により、原告両名に精神的苦痛を与え、かつ、原告山田史子には、昭和五七年一月二七日には、同人の体の三〇センチ近くの距離に違法にモンケンを落下せしめ同人がよける際に、同人に傷害を与え、かつ、同年七月二七日には、コンクリート塊を肩に落下せしめ傷害を与え、同人に損害を与えた。

(4) 右(1)、(2)の被告らの粗暴かつ違法工事により、五七年一月から七月の工事中は勿論、五七年八月から解決の見込まれる五八年一二月までは、被告土屋ビルが未完成であり、足場もとらないままであるため、原告山田の貸室収入が減少し、損害を受けた。

(5) 右のごとき、本件工事を行つた施工者の被告古瀬工務店は、不法行為責任(民法七〇九条)があり、設計者並びに工事監理者の被告宏林も、本件被告土屋ビルの設計、工事監理に過失があり、同様に不法行為責任があり、被告土屋、同土屋産業は、本件工事の進渉を急ぎ、違法な工法による違法な工事を、被告古瀬工務店とともに進めたので、不法行為責任があり、右の各責任は、共同不法行為である。

4 (原告山田隆一の受けた損害)

以下(一)ないし(六)合計金一〇八九万九七五一円。

(一) 金一七三万八〇〇〇円。

原告土地、建物の修理、修復代金。

(二) 金三六万四〇〇〇円。

原告山田隆一所有の木塀復旧費用。

(三) 金二四一万一八六五円。

証拠写真フィルム代、日影図作成、測量、鑑定等損害の調査、立証費用。

(四) 金二〇〇万円。

粗暴、違法工事による騒音、落石、ゲンノウ落下等による精神的苦痛による慰謝料。

(五) 金二一二万一〇〇〇円。

貸室減少二部屋分。一室一ケ月当り賃料三万五〇〇〇円。期間五七年一月から六〇年一月までの賃料相当損害。

(六) 金九九万〇八八六円。

弁護士費用。本件は、被告らは、示談にも誠意を示さず、弁護士に委任するほかなかつた。よつて、日本弁護士連合会の規定の範囲の弁護士費用であり、右(一)ないし(五)合計金九九〇万八八六五円の一〇%相当である。

5 (原告山田史子の受けた損害)

以下(一)ないし(四)合計金三六六万三八二九円。

(一) 金三三万〇七五四円。受傷分(慰謝料を除く)。

(イ) 金三万一二九〇円。

五七年一月二七日受傷分。治療費二万二九九〇円、交通費四三〇〇円、診断書料四〇〇〇円の合計。

(ロ) 金四万二二八〇円。

五七年七月二七日受傷分。治療費二万八八二〇円、交通費九四六〇円、診断書料四〇〇〇円の合計。

(ハ) 金二五万七一八四円。

主婦兼会計事務。

休業期間合計四八日(五七年一月二七日受傷分は、期間四二日、実通院五日、同年七月二七日受傷分は期間九二日、実通院一一日)。

休業日数は、実通院日数の三倍とする。

主婦労働として、五六年女子、平均賃金、全年令、規模計、学歴計による。

年 収 1,955,600円

月 給     賞 与

(=130,500円×12+389,600円)

日 収 5,358円(=1,955,600円÷365日)

実日数

∴  5,358円/1日×16日×3倍=257,184円

による。

(二) 金二〇〇万円。

粗暴、違法工事による騒音、落石、ゲンノウ落下等による精神的苦痛による慰謝料。

(三) 金一〇〇万円。

前記(一)の受傷による慰謝料。

前記(一)、(ハ)のとおり、通院期間一三四日、即ち四・五ケ月(第一回受傷四二日と第二回受傷九二日の計)の慰謝料。

現在も、原告山田史子は、後遺症に悩んでいる。

(四) 金三三万三〇七五円。

右(一)ないし(三)合計金三三三万〇七五四円の一〇%に相当する弁護士費用。

よつて、原告らは被告らに対し請求の趣旨一項記載の損害賠償金及びこれに対する不法行為後である昭和五七年八月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

6 (被告土屋並びに被告土屋産業の帰責事由)

右被告らは被告石塚所有の土地上に、地下一階、地上四階の鉄筋コンクリート造りの建物(被告土屋ビル)を建築し、これに隣接する、原告建物に居住する原告両名に対し、日照、採光、通風、天空阻害を与え、損害を与えた。

また、右被告らは、原告土地を使用しないと確約したのに、これに違反し、無断で原告土地の隣接地を使用した。

7 (原告山田隆一の受けた損害)

以下(一)ないし(三)合計金六六〇万円。

(一) 金三〇〇万円。

日照、採光、通風、天空阻害による損害。

原告建物の一階東側開口部で、従来の日照時間五〇分が、被告土屋ビルにより二〇分短縮され三〇分となり、四〇%の減少となる。二階開口部では、従来の日照時間一時間三〇分が一時間短縮され三〇分となり六七%の減少となる。

右のとおり、日照阻害は甚大であり、かつ、採光、通風、天空の阻害も大であり、この損害を評価すれば慰謝料を含め、三〇〇万円を下ることはない。

(二) 金三〇〇万円。

原告土地の隣地利用の対価と契約違反料。

昭和五六年一〇月二七日、並びにそれ以降も、被告土屋と被告土屋産業は本件工事にあたり、原告に対し、原告土地を使用しないと確約した。

ところが、本件工事中無断で、原告土地の隣接部分を使用した。原告土地を使用しなければ、被告土屋ビルのほぼ完成はあり得なく、逆に、右被告らは、原告土地使用によるビル完成という莫大な利益を受けている。五七年八月以降現在まで、車庫、倉庫に使用し、活用している。

右隣接地利用の対価と契約違反料は三〇〇万円を下ることはない。

(三) 金六〇万円。

右(一)、(二)合計六〇〇万円の一〇%に相当する弁護士費用。

8 (原告山田史子の受けた損害)

以下(一)、(二)合計金二二〇万円。

(一) 金二〇〇万円。

日照、採光、通風、天空阻害による損害。

理由は、前項(一)に同じ。

(二) 金二〇万円。

右(一)金二〇〇万円の一〇%に相当する弁護士費用。

よつて、原告らは被告土屋、同土屋産業に対し請求の趣旨二項記載の損害賠償金及びこれに対する不法行為後である昭和五七年八月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

9 (被告土屋、同土屋産業、同古瀬工務店、同石塚には、隣地立入権(民法二〇九条)がないことについて)

右被告らは、原告山田隆一に対し、本件工事前の五六年一〇月二七日、並びにそれ以降も、本件工事にあたり、原告土地を使用しないと確約し、原告は承諾を与えていない。

ところが、右被告らは本件工事にあたり隣地立入権を申し入れた。

よつて、請求の趣旨三項記載のとおり隣地立入権の不存在確認を求める。

10 (木塀の所有について)

別紙図面EFGHを結ぶ線上にある木塀は、原告山田隆一の所有である。

ところが、被告土屋、同土屋産業、同石塚は、右木塀は被告石塚に所有権が移転したと主張している。

よつて、請求の趣旨四項記載のとおり木塀の所有権確認を求める。

11 (目隠の設置について)

被告土屋ビルの西側の外壁は、境界より約二七・五センチしかなく、ここから、原告山田の土地、建物を観望する窓が一階と二階にある。

よつて民法二三五条により、被告土屋、同土屋産業は、右建物の西側一階、二階の窓に目隠を設置する義務がある。

ところが、右被告らは、これを設置しない。

よつて、請求の趣旨五項記載のとおり目隠の設置を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告石塚)

1  請求原因1の(三)(七)は認める。但し、AB間は八・二二六メートルではなく、八・二四メートルであり、イD間は八・二〇メートルではなく八・二四メートルである。

2  同9は否認する。

3  同10のうち木塀の所有権が被告石塚に移転したと主張していることは認めるが、その余は否認する。

4  同11は争う。

(その余の被告)

1  請求原因1の(一)のうち木塀EFの所有権が原告にある点は否認するがその余は認める。同(二)は不知。同(三)は認める。但し、AB間は八・二四メートルであり、イD間は、八・二四メートルである。同(四)(五)(六)は認める。同(七)は認める。但し、AB間は八・二四メートルであり、イD間は八・二四メートルである。

2  同2の(一)は不知。同(二)(三)(四)は認める。

3  同3は争う。

4  同4は争う。

5  同5は争う。

6  同6は否認する。

7  同7は争う。

8  同8は争う。

9  同9のうち被告らが本件工事にあたり隣地立入権を申入れたことは認めるが、その余は争う。

10  同10のうち被告土屋、同土屋産業、同石塚が木塀EFは被告石塚に所有権が移転したと主張していることは認めるが、その余は否認する。

11  同11のうち建物の外壁が境界より二七・五センチメートルしか離れていないこと、被告らが目隠を設置していないことは認めるが、その余は争う。

(第一一一〇一号事件)

一  請求原因

1 (当事者及び物件相互の関係)

(一) 訴外石塚ミヨは、別紙物件目録(一)の土地所有者である。原告土屋宗一は、右土地全部を訴外石塚より賃借している。

(二) 原告土屋宗一は、建主・施主として前記訴外石塚ミヨより借地している土地に別紙物件目録(二)記載の建物を原告古瀬工務店を施工業者として、右原告土屋ビルの建築工事(以下本件工事という。)を昭和五七年一月一二日に着工し、同年七月末には、原告土屋ビルの西側外壁の一部を残し、ほぼ完成し、現在に至つている。

(三) 被告山田隆一は、別紙物件目録(三)記載の土地(以下被告土地という。)を所有し、同土地上に別紙物件目録(四)記載の建物(以下被告建物という。)を所有している。

(四) 別紙図面EFGHを結ぶ線上に木塀が建築されている。

ところで被告山田隆一は、右木塀は被告の所有であり、別紙図面EABFEで囲む土地に、原告土屋の借地権はない旨主張するので、同土地は、原告土屋の土地賃借権があることの確認を求める。

2 (木塀について)

(一) 別紙図面EFGHに建築されている木塀は、被告山田隆一の所有であると主張する。

(二) しかしながら、当時訴外石塚ミヨ所有地は、別紙図面イロチトイで囲む土地であり、当時は、イロヌにそつた訴訟外の所有地に私道があつたため、それを利用していた。

ところが、昭和二三年頃、右私道が狭いため、別紙図面HIチトHを囲む部分とロEGIロを囲む部分とを交換することとなつた。

(三) 昭和四八年になり、右交換につき問題を生じ、昭和五五年二月八日、土屋宗一、石塚ミヨ、山田隆一間で裁判上の和解が成立し、改めて別紙図面DCチトDを囲む土地とロABCロを囲む土地を交換したのである。

(四) そこで、訴外石塚ミヨの所有権及び原告土屋宗一の借地権の範囲が、前記のとおりとなつたのである。

(五) その際、本件木塀が新境界線に合つていないので、将来当事者一方がその取壊の必要となつた場合に取壊し、新境界線に合わせて新しく設定する旨約した。

(六) 昭和五六年秋になつて、原告土屋宗一が、本件借地上に別紙物件目録(二)記載の土屋ビル建築計画を被告らに相談すると、被告らは、右木塀は被告らのもので、取壊しは認めないと申し入れ今日に至つている。

(七) 仮に本件木塀が被告山田隆一の所有であるとしても明らかに原告土屋宗一の借地権上に建築されている。

よつて、土地賃借権にもとづき、別紙図面EF部分の木塀の妨害排除を求める。

3 (境界について)

(一) 原告土屋宗一借地部分と被告山田隆一所有地とは、別紙図面AB・BDにて境界を接している。

(二) しかも右境界近くにEG・GHと木塀が建築されており、境界線と一致していない。

(三) そこで、右境界線と一致していないEG・GHの木塀を撤去のうえ、新たに、費用折半で、AB・BDに木塀を設置することの承諾をもとめる。

4 (目隠について)

(一) 被告建物外壁は、その東側に位置する原告借地境界より、約八〇センチメートルしか離れていない。

(二) 従つて、同建物一階の窓・二階の窓及びベランダから原告借地を観望しうる。

よつて、被告建物東側の一階及び二階の窓及びベランダすべてに、目隠を設置するよう求める。

5 (損害賠償について)

(一) 土屋ビル工事の交渉経過

(1) 昭和五六年八月ごろ、原告土屋は、土屋ビル建築を計画し、同年九月七日原告古瀬工務店との間で別紙物件目録(二)の建物建築を依頼した。

(2) 同月一八日建築計画のお知らせを土屋所有の旧建物に出し、同年一〇月一日、近隣者への説明会を設けた。

(3) すると近隣者は、被告山田隆一を除き、異議苦情を申し立てるものはなかつた。

そこで、その後は、被告山田隆一方で、被告らに説明することとなつた。つまり、一〇月八日、一〇月一三日、一〇月二〇日、一〇月二七日、一一月一七日、一二月八日、一二月一〇日と訪問し、説明ないし説得した。

被告らの申し出は、①象牙の塵埃が出ないようにしてほしい。②山田所有建物側つまり本件建物西側の窓を小さくしてほしい。③工事協定書案を出してほしい。④日影図を提出してほしい。⑤本件建物を境界より五〇センチメートル離して建築してほしいとのことであつた。

原告古瀬工務店側の説明と説得は、⑤は認められない、現状どおりの規模の建築を認めてくれれば、①ないし④は了解するとの内容であつた。

(4) そこで当事者同志では、話し合いがつかず、同年一二月一九日台東区役所にて調停も行なわれたが、前記⑤の点で被告山田隆一は、絶対に譲らないとのことでもの別れとなつてしまつた。

同年一二月二五日、建築確認がなされた。

(5) 被告山田隆一は、台東区役所の調停がものわかれとなり、近日中に建築確認がなされると考え、別紙図面EF部分の木塀が、別紙物件目録(一)の土地内にあることに目をつけ、この木塀を取り壊さないと土屋ビル建築ができないとにらみこれを取壊すと器物損壊として告訴すると申し入れてきた。

(6) 被告山田隆一は、昭和五五年二月八日の裁判上の和解以来、原告土屋宗一の借地権の及ぶ範囲として確定された別紙図面EABFEの土地の占有をこの日昭和五六年一二月一九日以来奪つた。

(7) そこで、原告土屋は、右占有侵奪の事実を実力で回復すべく、昭和五六年一二月二八日原告土屋所有の旧建物を取壊し、本件建物建築に着手し、昭和五七年一月二七日右木塀EF部分を実力で除去しようとしたところ、被告らは、パトカーを呼び寄せ、木塀除去を妨害され、器物損壊で告訴され(その後不起訴処分となつた。)被告らにより右木塀は、右刑事事件の証拠物件として、証拠保全しておくように警察に言われているから、そのままにしておくよう通告され、原告古瀬工務店は、右木塀をそのままにして建築を続行した。

(二) 建築工事の妨害状況

(1) 原告古瀬工務店が建築を続行するに際し、被告らは、職人らに対し、「どこの人間か」「名前は」等聞き廻り、「木塀に触れるな」等怒鳴りつけ、「足が出た」「尻が出た」と文句を付けては、ありもしないカナズチが落下した等の苦情を申し込み工事を妨害してきた。

(2) そのため、原告古瀬工務店は、第三者であるガードマンを雇い、トラブルの発生を防止してきた。

(三) 工事妨害による損害の発生

原告土屋の損害金六七五万円

(1) 土屋ビルの建築が建築確認までに二ケ月後れ、着工より完成まで約三ケ月遅れた。

本件土屋ビルの完成が五ケ月遅れたことによる損害は、本件土屋ビルを五ケ月利用できなかつたことによる損害であるところ、本件建物を他に賃貸すれば、一ケ月金七五万円であるから合計金三七五万円となる。

75万×5=375万円

(2) 虚偽刑事告訴による精神的慰謝料金一〇〇万円

(3) 建築工事遅れに対する精神的慰謝料金一〇〇万円

(4) 弁護士費用金一〇〇万円

原告古瀬工務店の損害金一四六二万八六四〇円

(1) 完成遅延による損害金五六〇万円

建築確認の二ケ月遅れ

40万×2=80万

工事期間の三ケ月遅れ

160万×3=480万

(2) 工事妨害による損害金二六四万八六四〇円

(イ) 昭和五七年一月二七日レール打込妨害による機械損料、職人の手間賃金二〇万円

(ロ) ガードマン雇用費用金五八万円

(ハ) 足場損料金九六万八六四〇円

(ⅰ) 工事遅延による

339.6(m2)×10(円)×90(日)=305,640円

(ⅱ) 工事完成後

170(m2)×10(円)×390(日)=663,000―

(ニ) 職人手間の増加金九〇万円

15,000円×60人(延)=900,000―

(3) 未完成引渡による減収金七〇万円

(4) 虚偽刑事事件による損害金四一八万円

(ⅰ) 人件費

12名×15,000(円)=180,000―

(ⅱ) 精神的慰謝料の代払分

50万円×8(名)=4,000,000―

(5) 弁護士費用金一五〇万円

よつて、原告らは被告らに対し請求の趣旨五項記載の損害賠償金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の(一)のうち別紙物件目録(一)の土地所有者が石塚ミヨであることは認めるが、その余は不知。同(二)は認める。同(三)は認める。同(四)は認める。

2 同2の(一)は認める。同(二)は否認する。同(三)は認める。同(四)のうち石塚については認めるが、その余は不知。同(五)のうち「本件木塀が新境界線に合つていない」ことは認めるが、その余は否認する。同(六)のうち原告土屋が本件借地上に別紙物件目録(二)記載の土屋ビル建築計画を被告らに説明し、被告山田隆一が木塀は同人の所有で取り壊しは認めないと申し入れていることは認める。同(七)のうち木塀が被告山田隆一の所有であることは認めるが、その余は否認する。

3 同3の(一)のうち原告土屋が借地しているか否かは不知、その余は認める。同(二)は認める。同(三)は争う。

4 同4の(一)のうち原告土屋が借地しているか否かは不知、その余は認める。同(二)は争う。

5 同5の(一)の(1)のうち日時は不知、その余は認める。同(2)は認める。同(3)のうち近隣者が苦情を申し立てなかつたこと、説得は否認し、その余は認める。同(4)のうち、もの別れとなつた理由は否認し、その余は認める。同(5)のうち被告山田隆一が木塀を取り壊すなと申し入れたことは認めるが、その余は否認する。同(6)のうち昭和五五年二月八日和解が成立したことは認めるが、その余は否認する。同(7)のうち被告山田隆一が占有侵奪したこと、木塀除去を妨害したことは否認し、その余は認める。

同5の(二)の(1)(2)は否認する。

同5の(三)は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

(第三五二八号事件について)

一請求原因1のうち、木塀EFの所有権が原告山田隆一にある点及び(二)を除き、その余の事実はいずれも当事者間に争いがない(但し別紙図面AB、イDの距離について被告らは八・二四メートルであると主張し、〈証拠〉によれば右事実が認められる。)。〈証拠〉によれば昭和五五年二月八日の和解において別紙物件目録(一)記載の土地は原告山田隆一と被告石塚との間で交換され被告石塚の所有となつたが、その地上にある木塀については何らの取り決めもないことが認められ、右事実によれば、被告石塚土地上に存在する木塀EFは主物たる右土地の所有権移転に従い被告石塚の所有となつたもの(民法八七条二項参照)と認めるのが相当である。〈証拠〉によれば(二)の事実が認められる。

二請求原因2の(二)ないし(四)はいずれも当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば同(一)の事実が認められる。〈証拠〉及び弁論の全趣旨を総合すれば次の事実を認めることができる。

1  本件工事現場一帯は前認定のように軟弱地盤であるが、被告石塚を除くその余の被告らは、設計上三・四四メートルであるのに五メートル掘さくし、H鋼を打込んだがその打込方が適切を欠き、埋戻しが不充分のため不等沈下を来たし、原告山田隆一所有建物の基礎と地盤との間に五センチメートル程の地割を生じ、建物にも亀裂や床面の傾斜、立て付けの狂いを生じた。本件工事以前にはこのような異常は認められなかつた。

2  原告山田史子は昭和五七年一月二七日本件工事を見張つていた際、同人の体のそば近くにモンケンが落下し、同人がよける際に転倒して腰椎捻挫の傷害を受け、同年七月二七日にもコンクリート塊が落下し肩に当り、右肩、右腕神経叢打撲の傷害を受けた。以上の事実が認められ〈る〉。右認定の事実に前記当事者間に争いのない事実を総合すれば、被告土屋、同土屋産業、同古瀬工務店、同宏林は本件工事の設計、監理、施工方法が不適切のため原告山田土地に地割や亀裂を生じさせ、原告建物の外壁に亀裂を生じさせ、床面の傾斜、立て付けの狂い等を生じさせて、原告土地、建物に損害を与え、また、騒音、落石、ゲンノウ落下等により原告らに苦痛を与え、原告山田史子には傷害を与えたものであり、右被告らは共同不法行為者として原告らに生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。

三そこで損害額について検討する。

〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められる。

1  原告山田隆一の損害

原告土地、建物の補修工事代 金一七三万八〇〇〇円

フィルム代等諸雑費 金二四万八〇一五円

騒音等による慰謝料 金三〇万円

弁護士費用 金二二万円

以上合計金二五〇万六〇一五円

2  原告山田史子の損害

傷害治療費・交通費・診断書料 金七万三五七〇円

通院一六日分休業損害(一日五三五八円の割合による) 金八万五七二八円

騒音等による慰謝料 金三〇万円

傷害慰謝料 金五〇万円

弁護士費用 金一〇万円

以上合計金一〇五万九二九八円

なお、原告山田隆一は木塀復旧費用を請求するが、前記のように木塀EFは被告石塚の所有と認められるから復旧費用は認められず、貸室減少による損害を請求するが、かりにその損害があるとしても本件工事と相当因果関係にある損害と認めることはできない。

四前記当事者間に争いのないように、被告土屋ビルが地上四階、地下一階の地上一一・六メートルの高さであり、原告土地との境界より約二七・五センチメートル離れているにすぎないこと、〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すれば、原告らは土屋ビルの建築により従前に比し日照時間が約一時間減少し、通風、採光等日常生活に支障を受けていることが認められ、諸般の事情を考慮すれば、日照、採光、通風等の阻害による慰謝料は原告ら各自金二〇万円が相当である。なお、弁護士費用はその一割に当る金二万円が相当である。原告山田隆一は原告土地の隣地利用の対価の契約違反料を請求しているが、前掲〈証拠〉によれば原告山田隆一は民法二三四条一項を根拠に建物を築造するには境界線より五〇センチメートル以上の距離を存することを要するのに本件では二七・五センチメートルの距離しか存しないから、二二・五センチメートル相当分の土地利用対価を請求していることが認められるところ、本件においては「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。」とする建築基準法六五条の適用があるものであり、同条は民法二三四条の特則と解するのが相当であるから、原告山田隆一の請求はその前提を欠き主張自体理由がないものといわざるをえない。

五〈証拠〉によれば、被告土屋、同土屋産業、同古瀬工務店は原告山田隆一に対し昭和五六年一〇月二七日原告土地を使用しない旨確約し、原告山田隆一がその承諾をしていないことが認められ、右被告らが本件工事にあたり隣地立入権を申入れたことは当事者間に争いがない。ところで民法二〇九条の隣地立入権は隣人相互の有効な土地利用を目的とし、境界またはその近くで建物を建築、修繕するために必要な範囲内で隣地の使用を請求することができるとし、相隣関係の規定は土地賃借権にも類推適用されるものであるが隣人が承諾しない限り、承諾に代わる判決を得ることが必要であるところ、本件においてはかかる承諾に代わる判決があつたことを認めるに足りる資料はないから、原告山田隆一の立入権不存在確認は理由がある。

六前記のように木塀EFは被告石塚の所有であり、被告土屋、同土屋産業、同石塚が右木塀の所有権が被告石塚に移転したと主張していることは当事者間に争いがない。そうすると、木塀の所有権のうち、EFを除くFGHが原告山田隆一の所有であることは原告山田隆一本人尋問の結果により明らかであるが、EFは被告石塚の所有であるといわなければならない。

七請求原因11のうち建物の外壁が境界線より二七・五センチメートルしか離れていないこと、被告らが目隠を設置していないことは当事者間に争いがなく、民法二三五条によれば他人の宅地を観梁すべき窓には目隠を付することを要するところ、弁論の全趣旨によれば土屋ビルの西側の一階及び二階に窓があることが認められ、右窓には目隠を設置すべきものといわなければならない。

八以上によれば、被告土屋、同土屋産業、同古瀬工務店、同宏林は各自原告山田隆一に対し金二五〇万六〇一五円、原告山田史子に対し金一〇五万九二九八円及びこれらに対する不法行為後である昭和五七年八月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、被告土屋、同土屋産業は各自原告らに対し金二二万円及びこれらに対する不法行為後である昭和五七年八月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり原告山田隆一と被告土屋、同土屋産業、同古瀬工務店、同石塚間においては右被告らが隣地立入権を有しないことを確認し原告山田隆一と被告土屋、同土屋産業、同石塚間においては原告山田隆一がFGHを結ぶ線上にある木塀の所有権を有することを確認し、被告土屋、同土屋産業は土屋ビルの西側の一、二階の窓につき目隠を設置すべく、以上の限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。

(第一一一〇一号事件について)

一請求原因1の(一)のうち別紙物件目録(一)の土地所有者が石塚ミヨであること、同(二)(三)(四)の事実はいずれも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨及び〈証拠〉によれば原告土屋が右土地を石塚より賃借していることが認められる。よつて原告土屋の賃借権確認は理由がある。

二請求原因2の(一)、(三)、(四)のうち石塚の所有権の範囲、(五)のうち「本件木塀が新境界線に合つていない」こと、同(六)のうち原告土屋が本件借地上に別紙物件目録(二)記載の土屋ビル建築計画を被告らに説明し、被告山田隆一が木塀は同人の所有で取り壊しは認めないと申し入れていることはいずれも当事者間に争いがなく、前認定のように原告土屋が石塚より右土地を賃借している。よつて賃借権にもとづく木塀EF部分の撤去の妨害禁止は理由がある。

三請求原因3の(一)のうち原告土屋の借地関係を除く部分、同(二)の事実はいずれも当事者間に争いがなく、原告土屋が右土地を石塚より借地していることは前記のとおりである。

弁論の全趣旨によればAB間は二棟の建物が所有者を異にしていることが認められるから、民法二二五条、二二六条に基づき板塀設置の承諾請求は理由があり、BDは民法二二三条、二二四条に基づく界標設置請求として理由があるというべきである。

四請求原因4の(一)のうち、借地関係を除く部分は当事者間に争いがない。ところで弁論の全趣旨によれば原告土屋の建築した建物は被告山田隆一所有の建物に遅れて建築されたものであること、原告建物は境界線より二七・五センチメートル被告建物は八〇センチメートル離れていることが認められるから、このような場合には目隠し設置の請求はできないものと解するのが相当である。けだし、相隣関係に基づく互譲の精神から目隠し設置が義務づけられたものであるが、後で境界線に接近して建築した者から既存建物に対し目隠設置を請求するのはまさに互譲の精神にもとるからである。

五請求原因5の(一)の(1)のうち日時を除く部分、同(2)、同(3)のうち近隣者に関する部分を除くその余、同(4)のうちもの別れとなつた理由を除くその余、同(5)のうち被告山田隆一が木塀を取り壊すなと申し入れたこと、同(6)のうち昭和五五年二月八日和解が成立したこと、同(7)のうち被告山田隆一が占有侵奪したこと木塀除去を妨害したことを除くその余の事実はいずれも当事者間に争いがない。前記のように被告山田隆一は木塀が同人の所有であるとし原告らが木塀を除去しようとするやパトカーを呼び、器物損壊で告訴し、証拠物件として保全するように通告されたこと、前掲〈証拠〉によればこれがため工事の進行が妨害されたこと、被告山田史子が工事を監視していたこと、証人細野和孝の証言によればトラブル発生を防止するため原告古瀬工務店ではガードマンを雇つたことが認められる。原告らは被告らの工事妨害により損害が発生したと主張し、これに副うかの如き〈証拠〉があるが、前記認定の事実にてらしにわかに措信できず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。また、原告らは器物損壊の告訴が不起訴になつたとして慰謝料の請求をするが、木塀の所有権をめぐつて争いがあり、これが被告山田隆一の所有であるとして器物損壊の告訴をしたものであり、前記のように木塀EFは石塚の所有であることが認められるとはいえ当時においては被告山田隆一の所有と考えたとしても無理からぬ事情にあつたのでありこれを目して過失があると断定することはできないから、原告らの請求は理由がない。

以上によればその余の判断をするまでもなく原告らの損害賠償請求は理由がない。

六以上によれば本訴請求のうち、賃借権確認、板塀取壊し妨害禁止、板塀設置の請求は理由があるが、その余は失当であるというべく、原告らの請求は右の限度で認容し、その余は棄却すべきである。

(むすび)

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官村重慶一)

物件目録(一)

所  在 台東区三筋一丁目

地  番 壱参番弐

地  目 宅地

地  積 五参・九五平方メートル

(別紙図面イABDイの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分)

物件目録(二)

物件目録(一)土地上

(イ)用  途 倉庫兼住居

(ロ)構  造 鉄筋コンクリート

(ハ)種  別 新 築

(ニ)階  数 地上四階、地下一階

高  さ 地上一一・六〇〇メートル(PH迄の高さ一四・二〇〇メートル)

(ホ)敷地面積 五三・七六平方メートル

(ヘ)建築面積 四五・〇〇平方メートル(建ぺい率なし)

(ト)延床面積 一九〇・五一平方メートル(容積率三六〇%)

略称土屋ビル。但し、建築工事中。

物件目録(三)

所  在 台東区三筋一丁目

地  番 壱参番壱〇

地  目 宅 地

地  積 壱参六・五弐平方メートル

物件目録(四)

所  在 台東区三筋一丁目壱参番地壱〇

家屋番号 壱参番壱〇の壱

種  類 居 宅

構  造 木造亜鉛メツキ鋼板瓦交葺弐階建

床 面 積

壱階 九八・九六平方メートル

弐階 九〇・四九平方メートル

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